【卓球】2018ジャパンオープン 伊藤美誠と張本智和が優勝:最終日の結果

 北九州市で行われている卓球の2018ワールドツアーのジャパンオープンの最終日(6/10)に女子シングルスで高校3年の伊藤美誠が、男子シングルスで中学3年の張本智和が中国選手を倒して優勝した。卓球ファンは知ってると思うが、優勝したのが中高生だと言ってこれはジュニアの大会ではなくれっきとしたシニアのそれも上位格の大会である。


 特に14歳の張本智和は、準々決勝でリオ五輪と昨年の世界選手権で優勝している絶対的王者の中国の馬龍、準決勝で昨年の世界選手権で個人3位の韓国の李尚洙(イ・サンス)、決勝でロンドン五輪で金メダルとリオ五輪で銀メダルの中国の張継科と並み居るメダリストを倒しての優勝だ。

 また、伊藤美誠の準決勝の相手の陳幸同と、決勝の相手の王曼昱は、21歳と19歳と2人とも中国若手のホープである。現在女子の世界ランキング10位以内に中国選手は5人いるが、陳幸同が10位、王曼昱が3位である(ちなみに伊藤は6位である)。また、王曼昱は先週の香港オープン、先週の中国オープンで優勝し3週連続の優勝を狙っていた。


女子シングルストーナメント表はこちらを、男子シングルスのトーナメント表はこちらをご覧ください。

1. 女子シングルス

・準決勝

伊藤美誠 vs 陳幸同 4-3 (8-11,9-11,6-11,11-9,11-9,11-7,11-7)

王曼昱 vs 劉詩雯(中国) 4-2 (11-7,7-11,12-10,9-11,11-6,11-6)


伊藤美誠は最初集中できなかったのかミスが多く3ゲームを連続で取られ、あと1ゲームで敗退という状況になり、しかもその4ゲーム目も4-9とあと2ポイント取られたら万事休すというところまで追い込まれ、もう駄目だなと多くの人が思っただろう。ところが、ここからが今回の伊藤美誠の違うところで、一気に7連続ポイントを取って4ゲーム目を取りゲームカウントを1-3とした。そして、その流れに乗って一気に残り3ゲームを奪ってしまった。4-9の追い詰められたところで急にスイッチが入って集中力が上がったのだろうか。後半3ゲームは、どんどん勢いに乗って相手も圧倒されていた。

・決勝

伊藤美誠 vs 王曼昱      4-2 (11-7,12-10,8-11,11-7,6-11,12-10)


伊藤美誠と王曼昱とは因縁がある。シニアでの対戦成績は2017年と2018年だけで伊藤の5戦5敗である(2014年にも1敗している)。特に昨年6月のジャパンオープンで対戦したときは最初2ゲームを取った後に4ゲームを連取して負け、王曼昱はこれから怪物になる選手で今回が唯一勝てるチャンスだったのにと言って大泣きしたのである。そして、先々週からの香港、中国、日本でのアジアでのワールドツアー3連戦(中国はプラチナ)で、最初の香港オープン、次の中国オープンと2回連続で準決勝で王曼昱と当たり敗退している。特に香港では最初に2ゲーム取り、1ゲームを返された後、1ゲーム取ってゲームカウント3-1とリードしながら3ゲーム連取されて負けている。


 昨年のジャパンオープンや先々週の香港オープンのように、最初に2ゲーム取ったあとに王曼昱に逆転されるケースが多いので、今回も2ゲーム連取した後に1ゲーム返された時には、また同じパターンになるのではいなかと心配した。その後伊藤が1ゲームを取りゲームカウントを3-1とし、また1ゲームを返されゲームカウント3-2となり、さらに6ゲーム目も10-8でゲームポイントを王曼昱に握られた。このゲームも取られるとゲームオールとなり香港オープンと同じ展開になるが、伊藤はここで粘りラリーで横に振り1ポイントを返し10-9とした。緊張感を和らげるために笑みを浮かべた伊藤は、ロングサーブを読んで回り込んでレシーブエースを決め10-10のデュースに持ち込んだ。ここでサーブ順の伊藤は王曼昱のレシーブを緩い球で返し、スピードの遅いラリーに持ち込み王曼昱がネットにかけて伊藤が11-10とマッチポイントとした。ここで伊藤はまた笑みを浮かべいつも以上にぴょんぴょんと跳ね緊張をほぐして王曼昱のサーブを待った。そして、伊藤のレシーブを返した王曼昱の球が台をオーバーした瞬間に伊藤美誠の優勝が決まった。

 伊藤美誠は、5月の世界選手権の決勝でゲームオールで8-10で 劉詩雯 マッチポイントを握られたときも、今回と同じように4ポイント連取で逆転し勝っている。この精神力のタフさが心臓に毛が生えていると言われる伊藤美誠の真骨頂だろう。しかし、いかに伊藤と言えどもプレッシャーがかからないわけではない。そのプレッシャーを感じなくさせるのが伊藤の母がいつもいう試合を楽しむ心を持つことであるのかもしれない。また、伊藤は緊張をほぐすために笑みを浮かべるのも、やはり母の指導らしい。そして、ピョンピョン跳ねるのもまた緊張をほぐすためだろう。技術的に競った選手同士の試合は、技術力より精神力の勝負である。プレッシャーを跳ね除け、いかに普段の力を出せるかが勝負の分かれ道だ。

 伊藤美誠は昨年のジャパンオープンで王曼昱に逆転負けしたときに王曼昱を「怪物」と評した。王曼昱はその言葉通り、今年のハンガリーオープン、香港オープン、中国オープンで優勝し、世界ランキングも3位に上げていた。伊藤はその怪物に勝ったのだから、伊藤も怪物になったのだろうか。

2. 男子シングルス

・準決勝

張本智和 vs 李尚洙      4-2 (11-5,10-12,11-4,11-5,5-11,11-9)

張継科 vs ボル(ドイツ)    ボル負傷のため張継科の不戦勝


 張本智和は前日に中国絶対王者の馬龍を倒している。しかし、4月のアジアカップ予選で現在世界ランキング1位の中国の樊振東(ファン・ジェンドン)を倒したあとに本戦の1回戦で韓国の丁祥恩(チョン・サンウン)に簡単に負けてしまっているので、大物を倒した後の試合は要注意である。

 しかし、張本は立ち上がりの悪い李尚洙から1ゲーム目を簡単に取り、試合を有利にすると、2ゲーム目は接戦を落としたものの、3、4ゲーム目を簡単に取り、3-1と決勝進出に王手をかけた。5ゲーム目は勝ちを焦ったか簡単に落とした。6ゲーム目も0-5とリードされたがここから怒涛の5連取で5-5の同点に追いつき李尚洙にタイムアウトを取らせた。タイムアウト後のラリーも張本が制し6-5と逆転したが、その後李尚洙に3ポイントを連取され6-8と再逆転を許した。さらにお互いに1ポイントを交互に重ね7-9となったが、張本がさらに3ポイントを連取し10-9と逆転し先にゲームポイントを握った。そして、最後の1ポイントも取り勝利をものにした。

・決勝

張本智和 vs 張継科    4-3 (9-11,8-11,11-9,11-4,10-12,11-7,13-11)


 張継科はロンドンオリンピックで金メダル、リオオリンピックで銀メダルを取っているメダリストである。しかし、数か月ほど兵役のため競技を離れていて先々週の香港オープンから国際大会に復帰したばかりだ。ランキングも下がってしまったため、先週の中国オープンでは予選から戦い本戦に進出し1回戦で張本智和と対戦している。このときは、張本が4-0のストレートで張継科に勝っている。


 このため、張本が優位との予測もあった。しかし、張継科も復帰後だんだん調子も戻って、その結果が今回の決勝なのでけして油断はできなかった。実際、最初の2ゲームをいきなり取られてしまった。その後2ゲームを返してゲームカウント2-2に戻した張本だが第5ゲームを接戦で落としなかなか並みに乗れない。第6ゲームも0-2とリードされたが、そこから張本が4ポイント連取で4-2とし勢いそのままにこのゲームを11-7で押し切り、最終ゲームに持ち込んだ。


 最終ゲームの張本の最初のポイントはラッキーなネットイン。さらに1ポイントを重ね、その後1ポイントを返されたがさらに3ポイント連取で5-1でコートチェンジと最終ゲームは張本有利に展開するかに見えた。

コートチェンジ後、お互いに1ポイントを取り6-2となった後、張継科が5ポイント連取で一気に6-7と逆転し、会場の勝ちムードが一挙に吹き飛んだ。その後、張本がラリーを征して7-7の同点とするが、張継科の4球目がネットイン、さらに1ポイントを取られ7-9となり、さらに張継科のサーブ順と張継科優位の状況になった。張継科の1本目のサーブは、張本のフォアハンドフリップでのリターンを張継科が台から外しまず8-9とし、次の張継科のサーブは台上のラリーとなったが張本の球がネットイン、そして最後はエッジで決まりラッキーもあったが9-9の同点とした。しかし、次の張本のサーブでリターンを台から外し9-10と張継科に先にマッチポイントを握られてしまった。しかし、ここでくじけないのが張本智和だ。次のラリーを征し、10-10のデュースに持ち込んだ。そして次の張継科のサーブで張本のリターンを張継科が台を外し、今度は張本のマッチポイントになった。しかし、張継科もオリンピックチャンピオンの意地を見せ、次の打ち合いを征し、再度11-11のデュースになった。ここで張本は張継科のロングサーブを回り込んでリターンエースを決め、2度目の張本のマッチポイントになり、最後はサービスエースで優勝を決めた。

 11-11から張継科のロングサーブを回り込んでリターンエースを決めマッチポイントを取ったプレイは張本が試合後のインタビューで200%、300%のプレイと自分をほめたいと言っていたこの試合のキーになったプレイだった。


 張本智和の今回の優勝は昨年の8月のチェコオープンに続く2度目のワールドツアー優勝だ。昨年のチェコオープンも今年3月に世界ランキング1位だったドイツのボルに勝っての優勝なので十分値打ちがあった。しかし、今回のジャパンオープンは1回戦で日本選手キラーの韓国の張禹珍、2回戦で中国の周雨、そして馬龍、李尚洙、張継科と強敵ばかりで、さらに張本の力を証明するものとなった。

 itTVの配信で解説をしていたアダムは、男子シングルスの中でこの大会だけでなく別の大会も含め、もっともすごい試合で、昨日の馬龍との対戦よりすごかった。張本は、将来まちがいなくこれまで見たこともない偉大なプレイヤーになると言っていた。試合中の興奮もあって少し大げさかもしれないが、当たらずも遠からずだろう。 張本智和は、14歳(今月27日で15歳)ですでに一流の技術だけでなく、一流の精神力も備えている。 確かに大物と言わざるを得ないだろう。

3. 男子・女子ダブルス決勝

・女子ダブルス決勝

顧玉婷/木子(中国) vs 劉詩雯/王曼昱(中国)    顧玉婷/木子ペア が不戦勝で優勝

劉詩雯の負傷のため劉詩雯/王曼昱ペアが棄権)


・男子ダブルス

李尚洙/鄭栄植(韓国) vs 梁靖崑/周愷(中国)     3-1 (11-6,5-11,11-9,11-5)